第10章 淡い想い
息を呑んだ。
何故だとか、どうしてそこまで目を奪われたのかだとか、そんなことは到底分かりはしなかった。
けれどこちらに振り返った彼女を見た瞬間、
まるで雷にでも打たれたようなその衝撃に、己の気持ちのコントロールが追い付いていないことだけは確かに分かった。
「初めまして!柊木エナです」
その笑顔が
その声が
その全てが
何もかもが好きだと思った。
瞬きをするたび細められる瞳も、口からこぼれ落ちる小さな吐息でさえも。全て、だ。
誰もが認めるほどの絶世の美女というわけではない。完璧なまでに顔が整っており素晴らしく可愛いというわけでもない。
ただ、この瞬間
己には世界中の綺麗なモノや魅力的なモノを全て集めたとしても、到底この目の前の彼女に勝るものは無いだろうと、そう強く感じた。強く惹き寄せられたのだ。
「傑、どうかした?」
隣で声も出せず唖然としている私に気が付いた悟が、不思議そう首を傾げる。
「あ、いや。何でもないよ」
やっと絞り出した声は、恐らく微かに震えていたかもしれない。それでも何とか正気を取り戻し、ゆるりと口角を上げ出来る限り優しい声色でゆったりと声を出した。
「私は夏油傑、よろしくね」