第9章 合同任務
「いや、でも…」
こうして口黙る夏油先輩は凄く珍しい。というより初めてかもしれない。何だかそれがやけに新鮮で「先輩に拒否権はありませんよ」なんてそんなことを言うと、夏油先輩の手を引いて無理矢理ベッドへと座らせた。
ゴォーっと生暖かい風を黒く長い髪へと当てれば、夏油先輩は困惑していた顔を緩めて諦めたように瞳を閉じる。
だけれどしばらくするとそれも、どこか嬉しそうで穏やかな表情へと変わったようにも見えた。
いつもしっかりと結ばれている夏油先輩の髪を、こうして私が乾かしているだなんて何だか不思議だ。
「先輩の髪、綺麗ですね」
傷んだ様子もなくサラサラとした艶やかな黒髪。いくら急いでいたとは言え、ビチョビチョのままシャワーから上がってくるくらいだ。わざわざ手入れをするようなタイプには思えないし、女性からすれば枝毛ひとつない髪が羨ましい。
「そう?」
「夏油先輩は、ずっと昔から髪長いんですか?」
「そんなことはないよ、高専に入る少し前くらいからかな」
「そうなんですね、じゃあ高専に入ってからはずっと伸ばしてるんですね」
「そうだね、髪を結ぶと自然と引き締まった気になれるから。オンとオフの使い分けに丁度良いんだ」