第9章 合同任務
私が夏油先輩に返せることなんて、きっと些細なことだ。誰にでもできるような、誰でも思いつくようなそんなことかもしれない。
それでもこの目の前の優しい人へと少しでも優しさを返したい。そう思うことは私の確かな感謝の気持ちだから。
「夏油先輩、髪の毛濡れてますね」
俯いていた顔を上げて夏油先輩が抱きしめてくれている体制のまま顔を持ち上げれば、先輩の頬の横に垂れている横髪にスッと触れる。
「急いでいたからかな。はは、確かにビショビショだ」
また見つけた。
この人の優しいところ。
酷い顔をしていた私のために、身体も温めず髪も満足にふかず急いで来てくれた。
「乾かさないんですか?」
「大丈夫だよ、そのうち乾くから」
「少し待ってて下さい」私はそう言って椅子から立ち上がると、夏油先輩の腕からするりと抜けて脱衣所へと向かった。
そして洗面の前に置かれているドライヤーを見つけると、それを持って部屋へと戻る。
「ここに座って下さい」
ベッドサイドのコンセントへとドライヤーを差し込むと、その近くのベッドをポンポンと叩いて夏油先輩へと視線をやる。
「私が乾かしますね」
「…え?」
「先輩ほら早く!今日は私のせいで身体まで冷やしちゃったのに、髪がいつまでも濡れてたら本当に風邪引いちゃいますよ」