第9章 合同任務
「何で夏油先輩が謝るんですか、夏油先輩は何にも悪くないのに」
本当に夏油先輩が謝る事なんて何一つ無い。
何故なら、私は五条先輩を引き止められる理由など何も無いからだ。恋人じゃないのだから、五条先輩は浮気をしたわけでも無ければ、私に止められる権利など何もない。
だからもちろん、夏油先輩が気にする事なんて何もなくて…それなのに私の気持ちを知っているからか、とても申し訳無さそうにする夏油先輩に、私の方が申し訳ない気持ちになった。
「あ、そうだ。夏油先輩学ランありがとうございました」
まるで話題を変えるみたいに、手に持っていた学ランを急いで夏油先輩へと駆け寄りその肩に掛ける。
「外寒かったですよね、すみません」
頭の中では、先ほどの五条先輩と女性が去って行く光景が頭にこびり付いて離れないはずなのに、それでも口はこうもスラスラと巧みに動く。
痛い、胸が痛い。
夏油先輩の冷えているであろう両手をぎゅっと握り締めれば、やはりその手はキンキンに冷えていて、申し訳無い気持ちと共に夏油先輩がしてくれた優しさがすとんと胸に落ちた。
「…本当に、冷えちゃいましたよね…凄く冷たくなってる」