第8章 気まぐれ
朝目を覚ませば、やっぱり目の前には眠っている五条先輩がいた。昨日のことはどうやら夢じゃ無かったらしい。
いや、いっそのこと夢だったら…こんなにも幸福に満ち足りて、そして切なさに押し潰されそうになることも無かったのに。
目の前の綺麗な五条先輩の寝顔をジッと見つめる。溢れ出してくるこの感情は、恋心や愛しさなんて言う可愛らしいものとは程遠くて…私の胸をいつだってぎゅっと握りつぶしたみたいな感覚にさせる。
それはまるで麻薬みたいに私を支配し、そしてまた…こうして私を切なさへと閉じ込めていくのだ。
五条先輩が好き。
好きすぎてどうにかなってしまいそうなほどに。
好きになればなるほど、私を苦しめそして深い沼へと落としていくのに。この感情を捨て去ることも、諦めることも出来ないなんて。
「いつまで見てんの」
その言葉に思わずビクリと肩を揺らした。だって、まさか五条先輩が起きているなんて思ってもいなかったからだ。
「いつから起きてたの…」
「お前が起きるよりもずっと前」
「それなら起こしても良かったのに」
「別に、俺もまだ起きたく無かったんだよ」