第8章 気まぐれ
部屋の主がいないこの空間をぐるりと見渡し、そういえば五条先輩がいないこの部屋に一人でいるのはあの時以来だと思い出す。
五条先輩が夜中に他の人の元へと行ってしまった日以来。
うわぁ、何か嫌な事思い出しちゃったな…そんな気持ちになりながらも、五条先輩がいないこの空間に居ても良いんだと許可がもらえたんだから、私は他の人よりも少しは特別なんじゃないかなんて、またそんな期待がチラッと浮ぶ。
まぁそんなの、結局は自分が五条先輩を好きで良いんだと思いたいが為の言い訳にすぎないのだが…
そんな事をまた悶々と考え始めた時ピロンっと携帯が小さな音を立てて、私はポケットに入れていたそれを取り出し、画面を見て思わず小さく笑ってしまった。
「ふふっ、何で夏油先輩っていつもこんなにタイミングが良いんだろう」
私が落ち込んでいる時…
海底の真っ暗な所へと沈んで行きそうになる時…いつも夏油先輩はこうやって私を明るい場所へと引き上げてくれるんだ。
携帯の画面には、3つ並んだ小さな雪だるま。それは私と七ちゃんた雄君の特徴をどことなく得ていて、こんな可愛い事をしている夏油先輩に思わず穏やかな気持ちになった。