第8章 気まぐれ
「期待しちゃったんだ?」
「違うってば!」
「でも目瞑ろうとしてたよな?」
そこまで分かってるなら聞かないでよ!!などと思いながら目の前の五条先輩の胸をトンッと押した。
一歩下がるようにしてベッドをズレて右腕で顔を隠す。もう嫌だ、五条先輩がいきなり近寄って来るからじゃん!なんて人のせいにしながら赤く染まる顔を見られたくなくて、その碧色から逃げるようにして視線を逸らすと
「まぁまぁ落ち着け。ほら、キスしよ」
何とも楽しそうなその声と、何とも甘ったるいその響きに頭が酔いそうになる。
「しないってば」
「スネてんの?」
「違うよ!今はそう言う気分じゃなくなったの!」
「じゃあさっきまではそういう気分だったんだ」
意地悪すぎる!どこまで揚げ足取る気なの!そう叫ぼうと顔を隠していた腕を退けた瞬間。
カチャンっとDVDが床に落ちる音がする。蓋が開いたのかカラカラとディスクが転げ落ち、パタンという何とも間抜けな音がした時には、私は五条先輩の腕にまんまと捕まっていて
「ほら、逃げんなよ」
碧く綺麗な光りが私を捉えて離さない。
いつの間にか捨て去られたサングラスはベッドの上に転がっていて、その行動の素早さに感動すら覚える。