第8章 気まぐれ
「いや、何で俺の服掴んでんの」
「…へ?」
パチパチと何度か瞬きをしていて気が付く。五条先輩の右手に握られたDVD。
いや、まさか…まさかとは思うけど…
カァーっと一気に熱が上昇していく私の顔面。嘘でしょ、ヤバイ、恥ずかしすぎる。勘違いも良いとこだ。
何と五条先輩は私にキスをしようとしたのでは無く、私を挟んで反対側にあったDVDを手に取っただけだった。
いやいやいや、あり得ないでしょ、恥ずかし過ぎるでしょ、少女漫画のベタな展開じゃないんだから!!恥ずかしいのレベル超えてるから!!
顔面を真っ赤に染めながらもパッと五条先輩の服を離し、ついでにそれとなく視線も外す。だけれど明らかに様子のおかしい私を、勘の鋭い五条先輩が気が付かないはずが無くて…
不思議そうにこちらを見ていた視線をいつの間にかスッと細めニヤニヤとした顔付きに変えると、それはそれは心底楽しそうに腹の底からからかう気満々の笑みを見せた。
「もしかしてキスされると思った?」
クイッと持ち上げられた口角はこれでもかと言うほど意地悪で楽しそうだ。
ドストレートな五条先輩の言葉に、ただでさえ赤く染まっていた顔面がさらに真っ赤な茹でタコのように染まっていく。