第7章 不器用な優しさ
自分にしては大きな声だったと思う。いや、それにしてもそこまで大きな声で言うは必要があったかと思うほどに、途中からは大きな声で言っていたと思う。
夏油先輩の背中がピクリと揺れる。筋肉質でがっしりとしているはずの背中が、何でかさっきはどこか少し儚げに見えて…あのまま夏油先輩を見送るなんて出来なかった。
何でだろう…何でそう見えたんだろう。
少しばかり冷えた声も、遠くを見つめるような黄金色の瞳も、あの時ばかりはいつもの優しさが消えそして刹那げに見えたのだ。
ぎゅっと握りしめていた夏油先輩の学ランが目に入りハッと我に帰る。
うわっ、私何勝手に夏油先輩に抱きついてるの!!
慌てるようにして手の力を緩め先輩から離れようと一歩後ずさった時だった。いつの間にかこちらに振り返っていた夏油先輩の腕が私を掴みそして引き寄せる。
さっきまで感じていた儚さはその腕にはもう無くて「…君は本当に」と何処か熱を持ったようなその声が耳元から聞こえて来たかと思うと、ガチャガチャと揺れる食器の音と共に私を強く抱きしめていた。