第1章 戯れ
『お待たせしてすいませんねぇ…
私に聞きたいことがある…と?』
女将さんに呼ばれていた為
女将さんの部屋へ訪ねる
女将は一人で部屋で待っていた
彼女は普段は物腰柔らかく
禿だけでなく
女将たちにも好かれる存在だった
「……私が小さい頃、聞いたことがある
昔からずっと居る、花魁の話さ」
『昔からずっと居る…?』
「その花魁は…"姫"という文字を
異様に好む女だったらしい
えらい別嬪だったけど、性悪で
気に入らないことがあると
首を傾げながら睨む癖がある」
『……実に興味深い内容ですね
妖かしの類でしょうかねぇ…』
それは明らかに、蕨姫…堕姫のことだ
「………っ…アンタもだよ…!!
その性悪の花魁も逆らえなかったのは
いつも物腰柔らかく笑ってて
"影"という文字を好んで名前に
いれてる花魁がいるって…!!!」
女将の手には背後で刃物が握られ
月明かりに照らされ怪しく光った
『………女将さん…?』
「……蕨姫は兎も角…アンタまで私は
疑いたくない…。
アンタは…人間……よね…?」
最早祈るように華影に聞く女将
彼女の期待を破るように華影は嘲笑った
ふっと、行灯の灯火が消える