第4章 Petunia
その違和感に気づいたのはいつだったか。
朝起きたら喉が痛かった。けほっ、と咳が出た。食欲がなくなり、ローズの作ってくれた朝食を残してしまった。そしてなにより倦怠感。
リヴァイは一人、顔をしかめた。
これは風邪だ。典型的な風邪である。
今日も今日とてリヴァイは金を稼ぐために地下街を宛もなく歩いていた。
風邪などリヴァイは生まれてこの方1度もかかったことはない。だが母親のクシェルが病気がちな人だったから、病の恐ろしさはなによりも知っているつもりだった。
歩いていると不意に足元がふらついた。
今日の収穫は少ないが、一日くらい早く帰って寝てもいいだろう。ローズに心配をかけるわけにもいかないし、さっさと風邪を治さなければ。
ふらつく足に力を入れて、我が家を目指す。
✲ ✲ ✲
「あ、リヴァイ。おかえりなさい」
だれもいないと思っていた家に、なぜかローズがいた。
まだ仕事をしている時間のはずなのに。
「た、ただいま」
風邪をひいてしまったことをバレたくない人間に真っ先に会ってしまった。
うしろめたいことを隠すようにリヴァイは目をそらす。
灯りがついていないと思っていた家に、灯りがついていた。
だれもいないと思っていた部屋に、人がいた。
なんてことないように「おかえり」と言ってくれた。
それが嬉しくて、一瞬気が緩んだ。
「コホッ、」
ちいさな咳をこぼしてしまった。
「風邪?」
目ざとく見つかる。
ローズは目を細め、ずいっとリヴァイに迫った。
「やっぱり。もうっ、風邪なら早く言ってよね。ベッドで寝てて。なにかお腹に優しいもの作るわ」
「……寝とけば治る」
「寝てるだけじゃダメ。ちゃんと体にいいもの食べないと」
これ以上なにを言ってもローズは聞かないのだろう。
リヴァイは早々に諦めることにした。素直に寝室へと戻る。