第2章 Geranium
日が傾き始めた。オレンジ色の夕焼けがリヴァイとローズを照らす。
「そろそろ戻ろうか」
うつらうつらとしていたリヴァイは優しく体を揺らされて目を開けた。
眠気の取れない目をこすってローズから離れる。下にしていた右腕はジンジンと痺れていた。
「そうだ。ねぇ、リヴァイ」
立ち上がり、腰を伸ばしたローズがいいことを思いついた、と言いたげに笑った。
「家にお花を飾ってもいい? 水の交換はあたしがやるから」
それはお願いというより決定事項だった。
リヴァイが断らないとローズは思っているようだ。
「あぁ」
本当は花びらが散るから嫌だとか、花粉が落ちるから嫌だとか言ってしまえばよかったんだ。だが、リヴァイの口から出たのは肯定のみ。
ローズは「ありがとう!」と言って、さっそくどの花を摘んで帰ろうかと悩んでいた。
「とっても綺麗」
しばらくして、静かにローズが立ち上がった。その手には赤色とピンク色の花が握られていた。
リヴァイにはその花がなんなのか全くわからない。だがローズの言う通り、可憐で美しいことはわかった。
「これはね、ゼラニウムっていうお花なの」
ローズは花に顔を寄せる。香りを嗅いでいるようだった。
ん、と差し出され、断るのも忍びなく大人しく真似をする。
途端に華やかな香りがリヴァイの顔を包んだ。その香りを嗅いでいると不思議と心が落ち着いていくのを感じる。
「いい香りでしょう?」
「あぁ。悪くない」
家に飾ればこの香りが広がるだろう。
その時のことを想像し、リヴァイは思わず表情を緩めた。ローズもまた嬉しそうに微笑んだ。
「これからは季節が変わったらまたお花を摘みに来ることにするわ」
二人並んで歩く帰り道。
ローズの言葉にリヴァイは静かに頷いた。
生まれて初めて、“これから”が楽しみに思えた。