第5章 珍カップル、我が道をゆく
部屋の扉ではなく、玄関とリビングを繋ぐ廊下の扉が。
「……っ!?」
「あれ? えっと確か、兄貴の彼女さん?」
そうだ、私が見たのはこの人だ。大寿の、妹さんだ。
「あ、初めまして」
「話すのは初めてですね。実は会うの初めてじゃないけど」
いつ会ったのか。見かけたとかだろうか、と考えていると妹、柚葉さんが私が縛られながら泣いて暴れていたあの日だと説明してくれたので、恥ずかしくて隠れたくなった。
「見苦しい姿を……」
「あはは、大丈夫大丈夫っ! アタシは、あの兄貴の手綱を握れるような人が現れたのが嬉しくてさっ!」
手綱を握れているのかは分からないけど、引かれてるとか、嫌われているとかではないのが救いだ。
ただ、今頃気づいた。自分の姿があまり人様に見せられるようなものじゃないと。
大寿のトレーナーだけを着て、脚は丸出し状態だった。
柚葉ちゃんに断りを入れ、着替えに行こうとした私は何かに包まれた。
「何してんだ。勝手にいなくなんな」
後ろから抱きすくめられ、動けなくなる。
「私、着替えてくる」
「あん? 必要ねぇ」
どこをどう見て必要ないのか。意味が分からず、大寿を見るけどスルーされてしまう。
「八戒が来れないから、代わりに頼まれたもん持って来た」
兄妹のやり取りを見ながら、完全ホールドされて動けない私は困ってしまう。
「兄貴はいい彼女見つけたよな。結構貴重なんだから、大事にしなきゃじゃん」
「うっせぇ。んなのは言われなくても分かってる事だ。用が済んだんならさっさと帰れ」
「ねぇ、大寿。私が口出すのもどうかと思うけど、わざわざ来てくれた妹さんに、そーいう言い方ないと思う……」
私が見上げながら言うと、大寿は眉を少し動かして「……悪かったな」と顔を逸らした。
叱られた子供みたいで可愛い大寿の頭に手を伸ばして頭を撫で、いつも私がされている事のお返しをする。
また眉がピクリと動き、抱き上げられる。
「ガキ扱いしてんじゃねぇ。柚葉、帰るなら鍵閉めてけ」
「え、あ、うん」
「ちょ、大寿っ……」
部屋に連行されながら、遠くで「ちゃんまたねー」と言う柚葉ちゃんの声に応えた。
ベッドに降ろされ、のしかかる大寿の端正な顔が近づく。