• テキストサイズ

【短編集】切ない恋もそこまでに

第16章 #16 痛みと傷


大海原に浮かぶ小さな船

そんな船の上での小さな、小さなお話。


「おい、そんな傷あったか?」


廊下ですれ違った女の白い腕を見て言った

二の腕に刃物で切られたような薄い傷


『え?…あぁ、今日の敵襲の際に少し』

「そうか、気をつけろよ」

『…ええ』


少しの間。

ほんの少しのズレには気づかない


『…どこ行くんですか?』

「少し街に」

『こんな夜に?』

「朝には戻る」

『………分かりました』


真っ暗になった外は、街明かりが目立つ

女の聞いたことは上手く躱され、男は闇へ溶けた


『……ほんと…馬鹿な人』


足に赤が滴った

木材の床にじんわり染みて、ワインのような色に変わった

酔えるのはこの数分だけ。



「おかえりなさい」

『…あぁ、』



通りすがりに香った強い香水の匂い

シャワー如きじゃ私の鼻は騙せないの


すれ違った男は、いきなり振り返り下を見る


「どうしたの」

『傷が増えてるぞ』

「木の尖った場所に当たっちゃったの」

『…ったく、気をつけろ』

「…………ええ」


命が篭っていない、あまりにもか細い声


男は気づかない
/ 18ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp