第10章 #10 一滴の笑顔
「んー…貴方の笑顔か、涙が見たいな」
「…なんだそれ」
記念日に欲しいものを男が聞けば、女はそう答えた
しかめっ面しか見たことない、そう言って女は満面の笑みを向ける
それを見て男はため息をつくが、心做しか口角は上がっていた
「そのうち、見れるかもな」
「ほんと?死ぬまでには見せてよね」
ニカッと笑う女に、男は眉の皺を深める
「縁起でもねぇこと言うな」
人間はいつか死ぬんだからー、と静かに笑いながら女が言えば、なにか言いたげに男は口を噤んだ
「お前はどっちが見たいんだ」
「泣き顔かな〜」
予想以上の速さで返答してくる女に隙を付かれた男は間抜けな顔をしてしまう
「は?趣味悪ぃな」
「えー、どっちも見たいけど泣くことなんて滅多にないじゃん?」
「確率の低い方を見てみたいなー」
「何言ってんだお前」
訳の分からない理由を聞いて男は疲れたようにソファに腰掛けた
「プレゼントなんて私要らないよ」
「あ?記念日は祝おうつったのは誰だよ」
「祝おうとは言ったけど、プレゼントなんていいよ」
「貴方そういう柄じゃないし」
「あ??……まぁそうだな」
サラッと言われ男はバカにしてるのか、という顔をするが確かに、と思い目を閉じた
「おやすみ」
そんな声が聞こえた気がした