第3章 西ブロック
「ユキ!危ないだろ!」
「なんか楽しそうにしてるから…」
「それがさぁユキ、ネズミがぼくより背が高いっていうんだ」
「そのまま話すのかよ…」
そうなの?と首を傾げてネズミを見るユキに、あぁとネズミが返事をした。
「それに細っこいしさ、あんた、そんなんじゃ恋人の前で裸になれないぜ」
「ぼくの裸を見たことあるのか!?勝手なこと言うなよ」
「…見た事があるって言ったらどうする?」
「私も?」
「流石に見ない」
呑気に話しかけてくるユキにネズミは小さくため息をついた。
ふと紫苑を見れば、眉を顰めている、
「ネズミ、きみは…ずっとぼくたちを見ていたのか?」
「どういう意味?」
「とぼけるな。まるでぼくたちがこうなることがわかっていたかのようにきみは現れた。ずっと見張っていたんじゃないのか?」
「自惚れんなよ、おれはそれほど暇じゃない」
「………(あ、これは喧嘩な空気)」
2人の言い合いを、傍で見守るユキ。
紫苑の言い分も分からなくはない、確かにタイミングがタイミングだった。
だけどもしネズミが見張っていたとして、だからなんだというのだ。
「(助けてもらったんだし、別に理由なんて…)」
どうでもいい、と思ったところで2人の喧嘩がヒートアップする。
「きみにぼくのなにが分かる!なんでこうなったのか、これからどうなるのか、混乱したままじゃ動けない!」
ガンッとユキが頭をぶつけた。
ネズミがブレーキを踏んだからだ。
そのまま力任せにネズミが紫苑の胸倉を掴み上げる。
「動け。動けないなんて甘っちょろいこと二度と言うな。あいつらはおれたちのことを人間だなんて思っちゃいない。虫けらを踏みつぶすみたいに始末できるんだ」
それを覚えとけ、とネズミが言って車を発進させた。
ユキがそっと紫苑に声をかける。
「紫苑。紫苑が思ってるほど、私達余裕ないと思うよ。気持ちは分かるけど今は動いて、ネズミ言う通りに逃げよう?」
「ユキ…。…分かったよ」
ぶつけた頭をさすりながら、ユキは荷台へと体を戻した。