第3章 西ブロック
『あと、怪我をしていたから』
『なるほど。つまり君たちはVCに同情して当局に通報もせず、傷の手当てをして逃亡の手助けをしたのですね』
『結果的にはそうなりました』
その後、適切な判断力・行動力に著しく欠けるとして紫苑の特別待遇は打ち切られた。
クロノスも追い出され、今は下町のロストタウンで3人で暮らしている。
最低ランクの生活で友達も沙布1人だけだが、不思議な事に紫苑もユキも後悔の念はわかなかった。
ネズミを助けた事、それは紫苑にとってもユキにとっても間違っていたとは思えなかったから。
帰り道、これから留学する沙布が、羨ましいでしょと紫苑に聞いていた。
紫苑は素直に羨ましいと答えたが、沙布は今までの行動から紫苑が羨ましがってるようには見えないと納得がいかないようだった。
そこからは沙布の専門分野の怒涛の講義が始まった。
「触らぬ神になんとやら…」
ユキはコソコソと2人から離れながら歩き、やがて3人が駅についた頃、近くの椅子へと座る。
沙布が紫苑に好意を寄せている事は知っている。
留学が近いと言っていた沙布のため、なるべく2人の時間を作ってあげたい。
「とか思いつつ紫苑から離れられない私って…」
そう思うなら2人だけにしてあげればいいのに。
頭では分かっていても、傍に誰かが居ないと落ち着かないのだ。
「我ながらブラコン…」
遠目で2人を見ていたユキだったが、突然聞こえてきた沙布の言葉に声を上げそうになった。
『精子』
え?沙布??なんだって?
何か紫苑と言い合っているが、表情から見てというか会話もだけど、どうやら沙布が思いを打ち明けてるようだった。
だけど精子っていったい…。
苦笑いをしながら頑張れ沙布と心の中で応援していると、ユキの膝の上に小さな鼠が乗ってくる。
「鼠…?」
少し驚いたようにユキが言ったが、そのまま鼠が肩まで登ってくる。
そして耳元で止まると、鼠から聞き覚えのある声がした。
『久し振りだな、ユキ』
「え!?」