第4章 社会人場地さん×長編年上ヒロイン
「何?」
「いやー綺麗になったな、と思って」
「そう」
「二次会も出る?」
「出ないけど」
「え、マジ? ねえ、一次会終わったら二人で飲まない?」
「飲むわけないでしょ」
意味不明なことを言い出した柳下を一瞥してから優希を追いかけるように動き出した私の後ろをチョロチョロとついてくる彼は、人好きのする笑顔を浮かべながら私の隣で尽きることなく話をしている。
昨日の信用ない圭介の瞳を思い出しながら私ってやっぱ男を見る目ないのかも、と乾いた笑い漏れてくるのは気のせいだと思いたい。……思いたい!
お店に入ると懐かしい顔ぶれが揃っていて、思わず私もパッと笑顔になる。すでに座っていた優希の隣に腰を下ろして、適当な飲み物を注文する。普段の飲み会とは違う雰囲気になんとなくワクワクしている自分がいる。
「も優希も久しぶりね!」
「ほんと! みんな変わってないね!」
「変わったわよー。子ども産んでから抱っこのしすぎで腕がムキムキになった」
きゃっきゃと会話に花を咲かせていると店員さんが「お待たせしましたー」と、お酒の入ったジョッキをたくさん持ってきてくれ、みんなのテンションが一気に上がる中、よりいっそう賑やかになった個室で、少しだけ表情が曇った優希に小さな声でどうしたのかと声をかける。
すると、優希から返ってきた言葉は……私がまったく予想していないものだった。
「実はね、最近生理が来てないの」
「えっ! それって……」
「そろそろ検査薬試そうかと思ってたんだけど、まだできてなくて……だからアルコール控えてるんだけど──」
目の前に置かれたジョッキを見ながら言葉を濁した彼女の言いたいことが、点と点が繋がった線のように理解できた。要は目の前にあるその飲み物は自分が頼んだものとは違うものが来て、更にはアルコールがふんだんに入ったお酒だということが伝えたいみたい。
優希は優しいから。場の雰囲気を壊さないように気を遣って、自分からは言い出せなかったのかもしれない。普段なら私と同じくらいガバガバとお酒を煽る優希に、誰か善意でお酒を注文してあげたのだろうし。その好意を無下にもできない、ってところかな。