第3章 北の海と潜入
「記憶は途中からまったくないけど、何もない!何もないから!」
「…本当だろうな。」
「ないよ、本当に…」
「おれもセンゴクさんも待ってたんだからな。」
「ごめん。」
こういう時、家族ってちょっと窮屈だなと感じる。
いや。同僚の話を聞く限りうちが少し過保護な気はする。
「…?」
気がついたら、ロシナンテの腕の中に居た。
あまり、ベタベタするタイプではないのだけれどそんなに心配したのだろうか。
飲みに行く事は伝えていたのだけど、朝まで帰らなかったら確かに心配はするだろうけど私なら先に寝てしまう自信がある。
「ロシナンテさん?」
「おれは暫くここを離れるんだ。しっかりしてくれ」
「(私も家からは離れるんだけど)ハイ、モウシマセン」
無断外泊が悪かったかな。
本当に申し訳ない。ロシナンテがこんなに心配してるんだからセンゴクさんも心配していたんだろうか。
次からはなるべく早めに帰ろう。
「……わるい。」
そういってロシナンテから解放される。
バツが悪そうな顔をしている。
「…理由さ。言いたくないなら仕方ないんだけど。潜入するのはロシナンテじゃなきゃダメなの?」
「っ…!」
「正直なところ、そういう説明がいっこもないからむしゃくしゃして飲み過ぎたって…あー、いやなんでもない。人のせいにしちゃダメだ。」
「悪い…おまえには言いたくねぇ。」
そこまで言うなら言いたくないんだろう。
モヤモヤした気持ちを抱えながらはロシナンテから離れる。
「おまえには」と言われた。
私じゃなければ話すのか。何故だ。頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
「わかった。今日はほんと、心配かけてごめん。部屋戻るね」
この日、朝ご飯もろくに喋らずさっさと海軍へ向かった。
荷物をまとめながら、引き継ぎも終わりは数日早いが北の海へと向かった。
その際センゴクさんにだけ話をし、ロシナンテとは顔も合わせなかった。
そっちが話す気がないなら私だって話してやるか。
意地を張ったのだ。情けないことに。
ロシナンテから逃げるようにして海軍本部を後にした。