第6章 縁(えにし)
そんなこんなで閑話休題、今は両親の数少ない形見を開けようとしている。そう思い至った切っ掛けは、かれこれ7年でエースも丈夫に育ってきたし、私も無事に呼吸や覇気や六式をマスター出来た。これはダダンさん達やおじいちゃん以外と関わる為の一種のけじめ、世界の悪者となってしまった両親を背負っていく象徴で
そんな覚悟を持って形見の箱を前にした私は、ゆっくり箱のかぶせ蓋を開けていく。その隣ではエースも興味深げに覗き込んできて、そうして中身を初めて見られた私達は揃ってハッと息を呑んだ
エース「すっげぇ……何だろこの花、絶対高級な生地で作ってるぞ……」
「(これって羽織……?今世じゃ見かけたことなんて無いのに……)」
私とエースは思考こそ違えど唖然とし、エースが中から大人サイズの羽織を出して前後をじっくり眺め出す。前の右胸部分に小さくハイビスカスの花が綺麗に描かれ、真っ白な羽織を凛々しく鮮やかに彩るデザインになっていた。けれど、前世の日本人が着ていた和服の羽織がどうしてこの世にあって、私に贈ってくれたのか。思わず言葉も出ずに戸惑い、箱に視線を送ってみたら桐箱の底が浅くて壁沿いに手を差し込める穴があるのに気がついた。どうやら二重底の構造だったらしい、ならばその下は何なのか。ほんの少し緊張感を持ちながらもゆっくり開けてみれば、その中身に今度こそ私は愕然となった
底の下には刀剣が二口並んでいて、サイズはそれぞれ太刀と脇差で全く長さが異なった。しかし白と銀色の縞模様な柄や、赤い蝶結びの糸に鈴がついて鶯色が塗られた鞘の装飾は両方同じだった。鍔の形は菱形に作られ、和風をイメージしたその刀剣を鞘から抜けばゆっくり刀身の色が変わって黒刀へ。私は握った感触や見目に既視感があった、信じられない現実を前に目を見開いて固まった
「(間違いない……これは前世の私の刀、日輪刀?!)」
更に懐かしい日輪刀の側には正方形の20cm四方の小箱が一つ。中を開ければ此方も愛らしいハイビスカスの髪飾り、母が付けていた物より僅かに小ぶりで可憐なそれ。どちらも私にとっては懐かしすぎる物ばかり。生前の母を思い出させる羽織と髪飾り、前世で使った鬼狩りの刃・日輪刀が二振りもある