第13章 里帰り
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そこから東の海(イーストブルー)のドーン島までは長距離だったが、やっぱり他島を寄り道する気が無かった私は即日凪の帯(カームベルト)へ突っ込んで、その勢いのままに無事東の海(イーストブルー)へと渡ってみせた。普通なら凪の帯(カームベルト)の気候と海王類の餌食になってしまってしまうのだけど、私はそこで暴れた経験があったせいで凶暴な筈の海王類を大人しくなったのだ……
なので群れの中でも1番強い海王類と交渉し、私が少しでも早く凪の帯(カームベルト)を抜けれるように協力して貰えないかと相談したら残像が見えるくらいに何度も頷かれた。そして一時(いっとき)の愉快なお供に海王類を添える短い船旅の中、海中からは複数の海王類の不思議な会話が聞こえていた
【ぼくらの声に気づいて言葉が分かる人間、何だか何年も前に見かけた帽子の男と赤ん坊以来だね……】
【ああ、懐かしい……】
【それにあの娘の面影をご覧よ、その時の赤ん坊じゃないか?】
【そうだろうね、それに帽子の男みたいな底知れない可能性まで感じるよ……。故郷の兄弟に会いたいがってるけどさ、その子達も彼女みたいにヤバいのかな?】
「ちょっと待ちなさい。色々肝心のとこ分かんないし、失礼すぎない?」
思わず誰にともなく小声で突っ込んだ。だって帽子の男っていっぱいいるじゃない誰なのよ。私は四皇や父親ほどのとんでもない戦闘力はないし、弟達は有望な海賊王の候補であるが可愛らしいのだ……。なのでこれまで海賊・海軍問わず白目を剥かせた数多の人間達の存在も、一般の子供と弟達の生活の違いについても都合良く思考の遥か彼方に追放しておいた。さすがに常人を超えた資質を持ってる自覚があるので、迂闊に海王類に話して海中にぶっ飛んだ噂が流れて怯えられるのは御免だ。そうなって困らないのは、敵になりえる下衆な連中だけなのである
そんなわけで一人で不満を感じていた私は知らない、海中の海王類の本当に意味深な会話を聞いていなかった
【……ああでも、この子には不思議な感覚になるね。まるで二人の王とは別に特別だったあの子よう、もしもそうなら今後こそは、】
【……そうだね、今度こそ悲願を果たせるかな?】
別れるまでの航海中、海王類達の鳴き声が唄となって海中に響いていた───