第5章 貴方の隣で
賑やかな街並みを蘭さんの隣で改めて見ると、全然違って見える気がする。
そして何より、周りの視線が凄くて、いたたまれなくなる。 蘭さんが目立ち過ぎているのは分かるんだけど、女性だけじゃなく、男性までもが蘭さんを見ていて、不思議に思う。
当の本人は慣れているのか、視線など気にも止めていない様子だった。
何処へ向かうのか分からず、初めて歩く場所にキョロキョロしていると、明らかに高級そうな店へ、慣れたようにスマートに入って行く。
中に入ると、品のある女性従業員さんが二、三人蘭さんを見て頭を下げる。
「灰谷様、いらっしゃいませ」
「こいつに合いそうな服適当に見繕って。あんま派手じゃないやつな。後、露出も低めで」
「かしこまりました。では、こちらへ」
一人の女性従業員さんが、私に向かって促す。私は蘭さんを見上げる。
「あ、あのっ……これは一体っ……」
「いーからさっさと行けー」
私の背を軽く押して同じように歩き出した蘭さんは、慌てる私をよそに、試着室の前に設置されたソファーにドカリと座って、長い足を組んだ。
広い試着室の中で、次々に用意された服を着せ替え人形かのように、着ては蘭さんの前に出て、また着替えてを繰り返す、ミニファッションショーが行われた。
「次は靴だな」
一通り着終えて、少し疲れた私の耳に蘭さんのマイペースな声が届く。 これは一体何の儀式なんだろうか。
私も買い物くらいはするけど、こんなに目が回るようなのは初めてだ。
蘭さんは毎回こんな事をしているんだろうか。
蘭さんが選んだ一着のワンピースを着たまま、ソファーに座って何足か並べられた靴を履いていく。
「よし、じゃ、ちょっと待ってなー」
頭に手を置かれ、蘭さんは従業員さんと何処かへ行ってしまった。
ソファーに凭れてため息を吐いた。
「お疲れ様でした。お待ちの間、ごゆっくりなさって下さい」
試着室に一緒に入っていた従業員さんが、ソファーの前にあるテーブルに紅茶を置いた。
お礼を言って紅茶を口元に持って行くと、いい香りが鼻から抜けてホッとする。
温かい紅茶が喉をゆっくり通り過ぎた。
「美味し……」
少し生き返った気分の中、蘭さんが戻って来た。それと同時に蘭さんの前にコーヒーが置かれた。