第2章 貴方と過ごす特別な日 ☆*:.。.伊達政宗.。.:*☆
まだまだ残暑厳しい夏の終わりだが、ここ数日は陽が落ちると少し秋の気配を感じるようになっていた。
「よし、出来た!何とか間に合ってよかったぁ」
膝の上には、縫い終わりの糸の始末をしたばかりの羽織があり、私はそれをそっと広げてみる。
刺繍の図案に納得がいかず最後まで拘ったために思ったより時間がかかってしまったが、その甲斐あってか、我ながら満足がいく仕上がりになったと思う。
(政宗、喜んでくれるかな)
この羽織は、数日後に迫る愛しい恋仲の誕生日を祝うための贈り物だった。
恋仲になって初めての誕生日のお祝いということで贈り物を何にしようか散々迷ったが、やはり自分の得意な針仕事で政宗に喜んでもらえるものを作りたかったのだ。
「思ったより時間がかかっちゃったけど贈り物の準備はできたし、誕生日当日は政宗の好きな料理をいっぱい作って、皆でお祝いの宴を開いて…」
楽しい計画を思い浮かべて、怜がウキウキと心を躍らせていたその時、部屋の外から人々の賑やかな話し声とバタバタと騒めく足音が聞こえてきた。
(ん?急に騒がしくなったけど、もしかして…)
出来上がったばかりの羽織を風呂敷で丁寧に包んで片付け、外の様子を見るために入り口の方へ向かいかけた時、入り口の襖がスパンっと勢いよく開いた。
「怜、帰ったぞ」
「政宗っ!お帰りなさい。今日は早かったね…っ、あの、何かあったの?」
政宗の身に纏う空気がいつもと違うような気がして、怜は遠慮がちに問いかけた。
「んー?何でそう思うんだ?」
政宗は怜の腰を抱き、その身体を引き寄せると、隻眼をキラリと瞬かせて怜の顔を覗き込む。
吸い込まれるような蒼い瞳に見つめられ、胸の鼓動が途端にうるさくなった。
「ち、近いよ、政宗…」
「いいだろ、別に。お前の可愛い顔、よく見たいんだよ」
「っ…もぅ…」
強引で自分の気持ちに正直な政宗らしい言葉に、自然と頬が緩んでしまう。
政宗はいつも回りくどい言い方はせず、思っていることをはっきり伝えてくれる。
(政宗には何一つ隠し事なんて出来ないな。政宗の前では自分を取り繕うことさえ愚かしく感じてしまう)