第4章 天に在っては願わくば ☆*:.。. 明智光秀.。.:*☆
徐ろに唇に触れた光秀の人差し指は輪郭を確かめるように唇の線をなぞる。触れるか触れないかのところを辿る指の動きは擽ったく、その意図するところが分からずに戸惑ってしまう。
「っ…あっ…なに…を…?」
「……上書きせねばな」
クイっと顎先を持ち上げると、顔を近付けて、怜の艶やかに潤う唇に自身の渇いた唇を重ねる。
「ッツ…ンッ…」
軽く重ねられただけでも酔った身には心地良く感じられて、頭の奥がじんっと甘く疼いてしまう。
触れているのは唇だけなのに、そこから全身に甘い痺れがじわじわと広がっていくようだった。
(お酒のせいかな…口付けだけでこんなに気持ちいいなんて。ふわふわして…このままもっと酔ってしまいそう…)
無意識に開いた隙間から割り入ってきた舌が口内をゆっくりと撫でていく。淡い水音を立てながら互いの舌を絡ませ合って甘い口付けに溺れていく。
静かな部屋に湿った水音と衣擦れの音が響き、次第に鼓動が高鳴り始める。
「んっ…ああっ…」
このまま流されるままに快楽に身を委ねてしまいたい…甘い口付けに酔って、そう思い始めた矢先、ちゅっ…と儚い水音を立てて光秀さんの唇は離れていった。
「あっ……」
高まった熱をそのままに名残惜しく見上げると、濡れた唇を指先で拭いながら口の端に妖艶な笑みを浮かべる光秀さんと目が合った。
(っ…もっと…口付けだけじゃ足りないのに…)
「光秀さん…」
「ん?」
もっと触れ合いたい気持ちを込めて見上げるけれど、いつもなら察しの良いはずの光秀さんが今宵は素知らぬ顔で見つめ返してくるのみだ。
「………意地悪しないで下さい、光秀さん」
「おや、何のことだか?」
「っ…分かってるくせに…」
口付けの続きが欲しくて、強請るように光秀さんの着物の袖をそっと引く。言葉にはせず、心のうちを訴えるように見つめると、光秀さんはふっ…と小さく笑みを溢す。
「酒のせいか?今宵は随分と欲しがりだな?」
「っ…違います。お酒のせいじゃ…」
「そうか?そんな蕩けた顔で言われてもな…酔って甘えるお前は愛らしいが、そういう顔を見せるのは俺の前でだけにしておけ」
「んっ…それ、どういう…意味…ですか?」
(光秀さんがそんなやきもちみたいなこと言うなんて…)