第3章 聖なる夜に ☆*:.。. 徳川家康 .。.:*☆
師走
今年も残り僅かとなり、安土城内は新年を迎える準備で慌ただしくなっていた。
年の瀬が近付くにつれ、何となく心が浮き立つようなそわそわとした気持ちになるのは戦国の世でも同じであるようで、怜はこの時期特有の落ち着かなさを感じながら日々を過ごしていた。
「もうすぐ今年も終わりかぁ。現代でもそうだったけど、12月ってあっという間に過ぎていくよね」
「そうだね。現代人の忙しさは半端じゃないけど、戦国時代だって負けず劣らずだ。越後はこの時期、戦はないけど、冬を迎える準備に何かと忙しくてね」
向かい合ってお茶を飲んでいる佐助くんは私と同じ現代人仲間で、越後の上杉謙信に仕える忍びだ。
今日は謙信様の命で京へ遣いに行っていた帰りに安土にも寄ってくれたそうで、いつものように天井裏から颯爽と現れた佐助くんと私は久しぶりに積もる話に花を咲かせていたのだった。
「最近急に寒くなってきたけど、越後はもう、かなり雪が降ってるの?」
「ああ、段々と降り積もる日も増えてきた。春日山が本格的に雪に閉ざされると、こうして怜さんに会いに来るのも難しくなるな」
「そっか…安土も毎年雪が降るみたいだけど積もるほどではないんだって、秀吉さんが言ってたな。ちょっと残念」
「ふっ…怜さんは雪が好きなんだね。あっ、そういえば俺の観測結果だと今週末は今年一番の寒さになるらしい。平野部でも雪になるかもしれないから丁度いいかもね」
佐助くんは眼鏡の縁を指先でクイっと持ち上げて言う。
表情はピクリとも変わらないが、その口調はまるで敏腕気象予報士のようであった。
「そうなの?丁度いいって…今週末って何かあったっけ?」
「お正月、大晦日の前、12月最大の行事と言えば……」
「えっ…う〜ん…何だろう…あっ!もしかして…クリスマス!?」
「正解!今年はホワイトクリスマスになるかもしれない」
「ホワイトクリスマス!?うわぁ…クリスマスなんて、すっかり忘れてたよ…」
クリスマス 聖なる夜
恋人や家族、友人、大切な人達と過ごす日
現代ではこの時期になると毎年、街はイルミネーションに彩られ、眩しいぐらいに光り輝く。
誰もが幸福に満ちた華やいだ笑顔を浮かべて、キラキラと光り輝く街を行き交っていた記憶が蘇る。