桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第11章 涙の意味【トラファルガー・ロー】
"こんな日に何で仕事なのだ。"
その悲痛な叫びは朝から何度も何度も頭に浮かんでは消え、浮かんでは消える。
今日は自分の誕生日だ。毎年訪れるその日が仕事になる事など想定内なのだが、ただそれだけでここまで悔しがっているわけではない。
遡ること昨日の夜、誕生日を迎える瞬間に電話をくれた優しい彼氏に一喜一憂させられることになった。
「明日、休みか?」
「え…?し、仕事…だけど。」
「ああ、まぁ…そりゃァそうか。」
外科医である彼が忙しくてなかなか休みが取れないのは知っている。
土日も仕事や学会で忙しいため月に会えるのは1、2回。
自分の誕生日は平日だったので診療があるため休みなど取れるはずもなかった。
そう、"はず"だった。
「…休みが取れたが、お前に休みを取れと伝えるのを忘れてたな。悪い。」
何ですと?!スマホを持つ手が震えて、肌と無機質な機械の間には冷や汗が流れ落ちる。
「え、え、えええ?!や、休みなの?!」
「ああ…。たまには誕生日当日に祝ってやろうと思ったが…悪かった。直前にしか決まらなかったんだ。」
電話口で申し訳なさそうに話す彼の口振りに焦燥感に駆られるが、別に彼が悪いわけではない。ただこればかりは"運"だ。
慌ててシフト表を確認するが、こんな間際にシフト変更をするようなこともできないし、体調不良を装うにも現在頗る元気な自分にポーカーフェイスなどできるはずもない。
自分の運の無さにガックリと項垂れるが、彼が仕事終わりに誕生日ディナーに連れて行ってくれるというので何とか精神を保っている。