桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第8章 チョコレートよりも甘い愛を【トラファルガー・ロー】
覚えていてくれたことが嬉しい。
わざわざ誕生日に来てくれたことも嬉しい。
忙しいのに当日に来てくれたことも嬉しい。
零れ落ちた涙を必死に左手でゴシゴシと拭き取ると肌にゴリッと痛みが走る。
「いっ、た!え…?」
思わず顔を顰めたまま左手を確認するが、そこに鎮座していた物に拭き取りたかった水滴が滝のように止めどなく流れ出てきた。
心臓につながっていると言われている左手の薬指には自分が貰えるような物ではない程、綺麗な輝きを放ったダイヤモンドが輝いている指輪。
いい大人がその意味を分からないほど馬鹿ではない。
「…1人で泣くんじゃねェ。」
「だ、って…嬉しくて…」
「それなら…返事は期待していいんだろうな。」
後ろから聞こえる低音は私の欲しい言葉をくれる。高級チョコレートなんてもうどうでも良かった。
今日、我が国では女性が男性に告白をするイベント。
それなのに私の彼はそんなことを気にもせずにいじけて泣いていた私にサプライズで愛をくれようとしている。
「…本当はもう少し待とうかと思ったが、会えないのは結構きつい。だから…オレと結婚してくれ。」
「うぅ…、は、はいぃぃ。う、鼻水が…」
「おい、しまらねぇこと言うなよ…」
そう言われても、もういてもたってもいられずに私は彼の胸に正面から飛び込んだ。
鼻水を付けられるかもしれないのに彼は私の身体を優しく抱きしめてくれた。
その後、彼の着ていた服に盛大に鼻水がびよーんと伸びて今日1番滑稽な姿だった。
「……ククッ。どうせ今日は休みでも取ってるんだろ?後で誕生日プレゼントを買いに連れて行ってやるからもう少しここで寝ていろ。」
もう十分もらっているから誕生日プレゼントなどいらないのに、彼は返事も聞かぬまま瞳を閉じてしまった。
たった数時間なのに天国と地獄の両方味わったためか腑抜けたように放心状態のまま彼が起きるまでボーッとしてしまい、己のキャパシティの狭さを改めて感じることになった。
(…そもそもこの指輪はいくらなわけ?!)
FIN