桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第2章 記憶の中の君に会いたい【冨岡義勇】
目が覚めたらそこは見慣れない部屋。
畳の匂いとシンと静まり返った空間には自分以外の人間はいないことだけが分かる。
体を動かそうとすると肉を引きちぎられるような痛みが全身を襲った。
「っ…ぐ、!!」
一瞬で体内から分泌された汗が布団に染みを作る。
どういう状況なのか全く思い出せない。
自分はどこから来て、何故ここにいるのか。そしてここはどこなのか。
──スゥーッ、トン
痛みに悶え苦しんでいると襖が開いて、驚いた顔をした青年が目に入る。
(……誰?)
「気が付いたか….!良かった。仰向けに寝なければ駄目だ。腹部に傷がある。」
布団から少しはみ出てうつ伏せに悶えている自分を元の位置まで戻してくれるその人は淡々としているが、触れる手はとても優しい。
誰なのだろうか。
分からない筈なのに彼の温もりが温かくて離れたくないと感じた。
思わずその手を掴むと彼の顔をマジマジと見やる。
「…あなたは、誰?あなたが助けてくれたの?」
その時の彼の表情は悲しさと寂しさを感じさせたが、自分を安心させようとしてくれていたのだろうか。
揺れた瞳のまま微笑んで頭を撫でてくれた。
***
人伝にアイツがあの町にいることを知っていた。
だから鬼狩りの任務を命じられた時、心臓を鷲掴みにされたようだった。ドクドクと脈打つそれは戦闘で疲労したからではない。時間が経過すると共に己の精神もすり減るような感覚を初めて感じた。
もっと早く、もっと、もっと、もっと──
血溜まりにアイツを見つけた時に全身におどろおどろしい感情が駆け巡る。
脳裏に浮かぶのは子どもの頃から唯一心を許していた幼馴染の笑顔。
あまりの怒りで完全に頭に血がのぼっていた。気が付いたら鬼を掃討して彼女を掻き抱いていた。
しかし、抱きしめているとまだ体が温かく、虫の息ではあったが生きていることに気付き、慌てて蝶屋敷に連れて帰ってきた。