桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第1章 不器用な想い【冨岡義勇】
「…大丈夫か。」
頭上から降ってきた声に勢いよく振り向く先輩と初めてちゃんと向き合った。
切れ長の瞳で自分を射抜き、彼の黒髪が風に靡いている。ドクンと胸が跳ねて御礼も謝罪も言うことができずに呆然としてしまう。
「…触れて悪かった。嫌だったか。」
触れられて嫌?そんなことがあるはずがない。
自分はこの人を好きなのだ。
だからそんなことを言う必要も思う必要もない。
それなのにこんなにもドキドキが止まらないのは"初めて彼とちゃんと向き合った"からだ。
それだけなのに心臓が口から飛び出てしまいそうなほど緊張してしまっている。
必死に首を振って"違う"と意思表示をする。
あんなにペラペラと喋り、纏わりついていたというのに何という様だ。情けないにも程がある。
「…あ、ち、違います‼︎その、せ、先輩が好きだから…目が合って緊張しちゃって…!」
性格的に誤魔化すことは難しい。どうせバレるなら素直に心の内を話すことが1番だ。
たった一度目が合っただけなのにもう恥ずかしくて彼の顔は見れない情けない自分を今、彼がどう見ているかは分からない。
しかし、視線の先にあった手が視界から消えて数秒後私の体が温かいものに包まれていた。
「…鬱陶しいと思っているなら一緒に帰るわけないだろう。」
「…せ、せ、せんぱい…」
「だが、他の男の話をされるのは少し腹が立つ。」
「え?!」
彼に抱きしめられていると気付いたのは顔を上げて先輩の顔が至近距離にあったこの瞬間。
見上げたその先には少しだけ不満そうな顔をした後、微笑んでくれた(ような気がした)義勇先輩。
決して分かりやすいわけではないけど、彼の不器用な想いが伝わるのはそう遠くない未来のお話。