桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第1章 不器用な想い【冨岡義勇】
「先輩〜!一緒に帰りましょう!」
「………。」
返事をしてくれなくても先輩はいつも少しだけ振り返ると自分が追いつくまで待っていてくれる。そして、追いつくと隣に並んで歩いてくれる。
「今日、何か楽しいことありましたか?」
「…特にない。」
「ふふ。私は今日炭ちゃん達と体育でドッジボールしました‼︎……光の速さで外野に行きましたけど。」
「そうか。」
冨岡義勇先輩はひとつ上の学年の先輩。
眉目秀麗という言葉がぴったりの美青年で自分が一目惚れをしてしまったのが始まり。
だが、初めて声をかけてから今現在に至るまでそろそろ1年が経とうとしているのにも関わらず彼との会話は思うように増えていかない。
相槌を打ってくれるようになったのはごく最近。それでも諦めずに話しかけていたら二語程度は喋ってくれるようになったくらい。
あまりに変わらない表情に不安は尽きない。
本当は心の中で喋りかけてくるなと思われているのではないか。
本当はこの時間を我慢してくれているのではないか。
好きでたまらないという想いをただぶつけてしまっていたが先輩が本当はどう思っているかなんて聞いたことはない。
「…あ、あの1つ聞いてもいいですか?」
「何だ。」
「……私のこと、う、鬱陶しい、ですか?」
だから今日は思い切って聞いてみようと思った。
卒業間近な先輩の高校生活が自分の付き纏いによって最悪な思い出として記憶されることが悲しいと思ったから。
「…何故だ。」
隣を歩く先輩が初めて私の方を見てくれたかと思うと発せられた言葉は疑問形。戸惑いを隠せずにつんのめった足がもつれて体が斜めを向いた。
──転ぶ!
このままいけばアスファルトに顔面を強打して見るに耐えない姿になるはずだったが、衝撃はいつになってもこなくて体は温かい感触に包まれていた。