第25章 第二十四話 アレンを追って
「まずは礼を言う。…モヤシには言ったが、お前には言ってなかっただろ」
「どういたしまして。礼を言われるほどの事をした覚えはないけれど…」
ユキサがした事と言えば、神田をアルマの元へ届けて蓮華の花を見せた事。
滅多に礼など言わないであろう神田の言葉をとりあえずユキサは受け取っておいた。
スッ…と神田の手が腹へ触れる。
神田が六幻で貫いた所だ。
「傷は」
「もう痛みはないよ」
短く答えるユキサの、点滴がついてない方の腕を神田が掴んだ。
一瞬だけ辛そうに表情を歪ませ、神田が俯く。
「…なぜ、記憶を消した」
「…………」
あぁ、やっぱり戻っていたかとユキサはぼんやり思った。
六幻を取り戻すためとはいえ、記憶が消されたままの神田ならキスなどしないだろう。
そもそもここに怪我が治った状態で戻ってきた時点で、記憶も戻ってしまっただろうなと思っていた。
答えないユキサの腕を強く掴む。
ふぅと息を吐いたユキサがゆっくりと口を開いた。
「邪魔だと、思ったから」
「…………」
「だってそうでしょう?やっと、神田の愛していた『あの人』に会えたのに」
他の気持ちなんて、あってもしょうがないでしょう。
淡々と言ってのけるユキサはちらりと神田を見るが、俯いたままの神田の表情は見えない。
『ユ、ウ…』
『もう喋んなバカ』
『あの、女の…子…』
『…女?ユキサの事か』
『あの子は、ユウの大事な…子じゃないの?』
『?…あいつは、俺がエクソシストとして連れてきた奴だ』
ただそれだけの関係。
きっぱり言い切った神田に、本当にそれだけかとアルマは聞いた。
『あの子がくれたこのネックレスは…ユウのつけてるブレスレットと同じ石だよね…』
『……』
『ユウにとって、何も関係ない存在ならそれでいいんだけど、さ…』
あの子も、きっとノアだとアルマは言った。
アルマの傍にいた時に、一度だけ目が金色に光った。
触れていたアルマが僅かに感じ取ったのだろうか。
『ユウ…後悔したまま逝くのだけは、許さないからね』