第3章 第二話 マテールの亡霊
「私はずっとこの世界に居たと思うけど…」
そうだろうな、と神田は思った。
だがユキサも元々はあの村で拾われ、それ以前の記憶がない。
何か関係しているのは少なからずあるかもしれないと考える。
少し歩いた所で、1つの部屋の前で神田が足を止めた。
「目を覚ました」
ドア越しに声をかけると、バタバタと足音が聞こえてすぐに扉が開いた。
突然開いた扉に少し驚きながら、ユキサは彩音と不二を見る。
途端に涙を流す彩音に、ユキサは困惑した。
「え、あ、あの…」
「雪砂…!雪砂~~~…」
ギュゥゥゥと抱きついてきた彩音に困ったようにユキサが神田を見たが、神田は壁に寄りかかってこちらを黙って見ていた。
とりあえず目の前の彩音を落ち着かせようと、背中を撫でる。
戸惑った様子のユキサを見て、不二が首を傾げた。
「雪砂…?」
「は、はい」
不二に対して返すそんな返事聞き、彩音もピタリと泣き止んだ。
そして恐る恐るとユキサを見る。
2人の視線に、ユキサが申し訳無さそうな表情をして言った。
「その…あなた方は私を知っているようですが…。私はあなた方を知りません…。人違いだと、思います…」
「そんな事無い!」
突然声を上げた彩音に、ユキサはビクリと体を震わせた。
ハッとした彩音が小さく謝罪の言葉を口にするが、しかしユキサは自分たちの幼馴染みだ、と言い張った。
違うとふるふる首を振るユキサと、違わないと涙を流す彩音。
そこへ、黙って見ていた神田が、珍しく口を挟んだ。
「コイツが、てめぇらの幼馴染みにそんなに似てるのか?」
「似てるも何も、雪砂そのものだよ」
名前も一緒だしね、と不二が言う。
彩音と不二が知る幼馴染み。
「だがコイツは元々とある村にいたんだ、数年間。てめぇらの幼馴染みとやらはいついなくなったんだ?」
「あ…それ、は…」
神田に問われて口籠る彩音。
彩音と不二が知る雪砂の姿。