第24章 第二十三話 記憶<メモリア>
神田がユキサの方へと向く。
「…。…ユキサ…」
「いくんだね」
その言葉に、神田が俯く。
―――――『約束』のために、『約束』を破る。
神田が辛そうに表情を歪め、ユキサへ何か言おうとした時。
ふわりと、ユキサの髪が揺れ、ユキサの唇が神田の唇へ重なった。
驚きに目を見開いていた神田に、ユキサが小さく微笑みながらそっと唇を離す。
そうして小さく言霊を唱えた。
「『忘れて』」
「なに……?っ!おまえ…!」
「『どうか、命が尽きるその日まで』」
『神田からユキサの記憶を消す!?』
『うん。と言っても、私自身の記憶を消すわけではないんだけど…』
少しだけ言いづらそうにしながら、ユキサは言葉を続けた。
『まぁその、私への意識を消すって意味で』
『!それって…』
つまり、神田のユキサに対しての思いを消すという意味だ。
なぜそんなことをと聞こうとして、アレンが言葉に詰まらせる。
どこか遠くを見つめるユキサは、既に心が決まっているようだった。
『いざという時の決心を、鈍らせないためかな』
そうか、ユキサは最初からアルマが『あの人』だと気づいていたのか。
だから自分が2人の邪魔をしないようにと。
神田の記憶の中に飛んでいた時、ユキサがアレンに止めないでと言っていた事。
思い出しながら、アレンが2人から顔をそらした。
ユキサの言霊に一瞬虚ろな瞳をした神田は、すぐに瞳に光を取り戻した。
しかしそこにいる神田は、もう今までの神田ではない。
ユキサへの視線は、誰にでも向けるような普通の眼差しだった。