第3章 第二話 マテールの亡霊
ゲホッと咳き込んだグゾルに、ララは心配そうに声をかけた。
「ララ…ずっと一緒に居てくれ…」
グゾルの言葉にララはギュッとグゾルを抱きしめた。
「グゾルはもうすぐ死んでしまうわ。心臓の音が小さくなってるの」
後少しだけ、一緒に居させて
グゾルが死んだら、私の心臓を持っていっていいわ
だから最後までグゾルの傍にいさせてーーーーー。
お願い、と懇願するララに、アレンは何も言えないでいたが…。
「駄目だ」
はっきりと、その言葉は背後から聞こえてきた。
振り返ると、神田が辛そうに体を起こす。
「その老人が死ぬまで待てだと?いつまたAKUMAが来るか分からない状況で、そんな時間はない」
俺たちは何のためにここに来た!?今すぐその人形の心臓を取れ!
そう叫ぶ神田に、アレンはぽつりと呟いた。
「…取れません。…ごめん、僕は取りたくない」
アレンの言葉に神田は苛立ちを露わにする。
神田の枕に置いていたアレンの団服を、神田はアレンへ無造作に投げつけた。
なにやら険悪な雰囲気に、彩音も不二も戸惑う。
立ち上がった神田が、ゆっくりとララとグゾルへ向かった。
「…犠牲があるから、救いがあんだよ、新人」
すれ違いざまに囁かれた神田の言葉に、アレンは振り返った。
六幻をララに構える神田。
「じゃぁ、僕がなりますよ」
2人を庇うように立ったアレンを、神田は睨みつける。
「僕が、2人の犠牲になります。2人はただ、2人の望む最後を迎えたいだけなんだ。だからそれまでイノセンスは取りません。…僕が、AKUMAを倒せば問題ないでしょう?犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!」
ガッと音がした。
神田がアレンを殴りつけた音だった。
トマが慌てたように止めに入る。
「とんだ甘さだな!可哀想なら他人のために自分の身を切り売りするってか?テメェに大事なもんはねぇのかよ!!!」
「大事なものは…昔無くした」
倒れた体を起こしながら、アレンが続けた。
「可哀想とか、そんな綺麗な理由持ってないよ。自分がただそういうのを見たくない。ただそれだけだ」
僕はちっぽけな人間だから、大きな世界より目の前のものに心が行く。
切り捨てられません…。だから…守れるなら守りたい!!
アレンがそう叫んだ、その時だった。