第3章 第二話 マテールの亡霊
まだ本調子じゃない体ではAKUMAの攻撃を押し返せるほどの力は無い。
弾いては時々大きく距離を開け、大鎌の斬撃を飛ばす。
それを避けて近づいてくるAKUMAの攻撃をまた大鎌で弾いた。
そうして時間を稼ぐようにして、ひたすら繰り返す。
(アレンたちが上手く隠れられていればいいのだけど…)
ふと、アレンたちを見送るように頼んだスノーベルが心配そうに戻ってきた。
それを見て、無事アレンたちが隠れられたのだとユキサは確信した。
ならば自分も…とAKUMAの攻撃を弾き返した後、羽を強めた。
大鎌をしまい、スノーベルを服の中へ。
そうしてすばやくこの場から去ろうとした時だった。
ビキッと足が痛む。
「な…っ」
何で、こんな時に…!
まだ不安定なイノセンスを使いすぎた代償は、大きかった。
背後に影が降り立つ。
「もういいかイ?この茶番ヲ終わらせてモ?」
にたりと笑った表情が、ユキサの赤い瞳に映った。
「この町が、神に見放された地と呼ばれていた事は知ってる?」
はい、とアレンは頷いた。
後ろでは、彩音と不二が神田とトマを休ませている。
アレンは地上で戦うユキサの事が気がかりではあったが、イノセンスがこの場にある限り、下手に残していく事は出来ない。
ララは話を続けていた。
この町の人々が厳しい気候と強い日差しを避けるために、地下を掘り進めて住居としていた事。
その掘り進めた先で、イノセンスを見つけた事。
辛い日々を送っていた人々が、ほんの一時、それを忘れるために人形を作った。
踊りを舞い、詩を奏でる人形…。
その人形は、それから数百年、町が滅んで、人々がいなくなっても、ずっと動き続けた。
ある時、町に1人の少年がたどり着いた。
それがグゾルだ。
500年の間、人間が来るのは初めてではなかった。
しかし人形が、歌はいかが?と聞くと、その人間たちは恐怖のあまりか襲いかかってきたのだ。
人形はその人間たちを殺していた。
だがグゾルは違った、彼だけは歌を、その人形を受け入れてくれたのだ。
あれから数十年、グゾルは人形をララと呼び、ずっと傍にいてくれたのだという。