第3章 第二話 マテールの亡霊
「ユキサ!?」
「ッ…!!」
アレンの姿をしたAKUMA方へ、連続で斬りかかる。
それを弾くか、避けるかしながらAKUMAはユキサを弄んでいるようだ。
ヒャハハハ!と笑いながら、ユキサを弾き飛ばした。
壁に叩きつけられたユキサに、アレンは慌てて駆け寄る。
「何という強さ…」
離れた所から見ていたトマは隠れながらAKUMAを観察していた。
やがて、戦っていた2人姿はAKUMAの一撃により煙の中へ見えなくなってしまった。
トマはその様子を見ながら、通信機を手に取った。
「AKUMAは、イノセンスとは対局の存在で、ダークマターで作られている。そして、進化すればするほどその物質は成長し、強化されていく」
レベルが上がれば新しい能力にも目覚め、格段に強くなる。
アイツが勝てる相手じゃない。
そう言った神田に、彩音が声を上げた。
「じゃ、じゃぁなんでさっきの人置いてきちゃったの!?」
2人で戦えばなんとかなるんじゃ、と続ける彩音に、神田はキッパリと言い切った。
「お前たちを守りながらじゃ戦えない」
「あ…」
落ち込んだ彩音の肩に不二が優しく触れる。
遅かれ早かれここにくる、俺たちの所に。
「つまりお前が言いたいのは…AKUMAが来る前に、イノセンスが欲しいということか」
「ああ。できれば、今すぐにだ」
そうか、とグゾルが帽子を脱ぐ。
私がマテールの亡霊だ、と言ったグゾルは幽霊ではなかった。
彩音も不二も、グゾルが幽霊ではないことには気づいていたが、イノセンスを持っているマテールの亡霊という事までは知らなかった。
私は人形だ、と続けるグゾルに、彩音は少し首を傾げた。
かつてマテールの町は、人が住めないような環境から、神に見放された町と呼ばれていた。
絶望と苦しみに生きるマテールの民は、その苦しみを忘れるために、踊りや歌を歌う人形を作った。
その後町が滅び、人々が消えてもその人形は動き続けた。
それが私、マテールの亡霊だ。
「この町が滅びたのは500年前。お前はそれからずっと動いていたのか」
グゾルの言葉に問いかけた神田に、イノセンスを心臓にして動いていると答える。