第14章 第十三話 白銀の記憶
江戸まではまた船で渡らないといけない。
そしてその船着き場までは汽車を乗り継がなくてはならない。
「江戸まで遠いねぇ…」
汽車の特別室内で彩音がため息混じりに言った。
現在この部屋にいるのはユキサ、彩音、不二である。
ティエドールと神田、マリは隣の部屋にいた。
特別室と言っても汽車の中だ、そこまで広くないため3:3で別れた。
また船もあるしね、とユキサが不二に言えば、不二が苦虫を噛んだような表情をする。
「できれば江戸にまで船は遠慮したいところだけど…」
「地上で江戸まで向かうルートがないかもしれないって事だったよね…」
うん、と彩音が頷く。
ここ、蝦夷地から本島へは船で行かなくてはならない。
問題はその後だった。
今もまだ汽車が使えるのなら、江戸までの道は汽車で行く方が早いだろう。
しかしもしAKUMAによって破壊されているのなら、徒歩より海上から行く方が良いだろう。
船酔い酷くないといいね、と彩音が不二に慰めの言葉をかけた時だった。
ユキサの体が光り出し、座っていたソファからガタン!と落ちる。
「これは…、まさか!」
「う、くっ…」
次いで彩音も苦しそうに胸を押さえた。
大きな音にティエドールたちが駆けつけた。
床に倒れているユキサに神田が駆け寄る。
「大丈夫かい、ユキサちゃん、彩音ちゃん!」
「う、ぅ…神田、リナ、リーが…!!」
「ッ!?」
リナリー。
ユキサから出た名前に神田たちが青ざめる。
「まさか、リナリーが…?」
「リナリーたちは確か、中国から船で江戸へ…」
しかし日数的にまだ江戸へは到着してないはず、とマリが言う。
ならば考えられることは一つだ。
海上でAKUMAに遭遇したのだろう。