第14章 第十三話 白銀の記憶
「彼女は…私の大切な人よ」
「大切な人?」
とは言っても、記憶が混濁していてあまり良く覚えていないんだけどね。
そう言って寂しく笑う雪女。
「私が目を覚ました時には、もうこの体はAKUMAだったわ。生前の記憶も朧げでよく覚えていない。伯爵様の名により、ただ全てを壊すだけの存在。だけど数年前…」
そう、ユキサが村へ引き取られる前の事。
「この森で彼女と出会ったわ。私はAKUMA、人間は殺さないといけない。…けれどどうしても彼女を殺す事が出来なかった」
自分と同じく記憶のない少女を、AKUMAの私が色んな事を教えた。
「イノセンスを宿している事も当然分かっていたわ。私にとって敵なのだと。伯爵様からも殺すように命じられていた」
けれどその命令を無視し続け、雪女は村へとユキサを隠した。
「私との言霊で記憶は封印させてもらったわ。いつか私というAKUMAを倒す時に、躊躇わないようにってね」
「え、言霊って…」
「そう、彼女も使っている技よ」
ユキサに教えたことはなかったが、体に染み付いていたのだろう、記憶を消したはずなのに使っているのは驚いたと雪女は言う。
「伯爵様にはすぐに気づかれた。私はレベル3だということもあってお咎めは小さいものだったけれど…彼女が狙われ始めてそれからすぐに、あなたが来た」
神田の方を見る。
「エクソシストとして連れて行かれた時はほっとしたわ。彼女も強くなれば自分の身も守れるだろうって。だけど」
伯爵が大きく動き出すと同時に、雪女自身も逆らえないようになってきた。
ユキサを捕らえるように命令を受けて、雪女はユキサを氷の洞窟へ封印しようと決めたのだった。
「伯爵様も目の届かない場所へ封印して、もう聖戦には参加させない。そうすれば命だけは助けられる」
そうして異常気象を起こしてエクソシストが来るように仕向けた。
故郷の村があった場所ならば、ユキサが来る可能性も高いと狙って。
「さっき彼女が攻撃しなかったのは、私の中にある記憶を見たからだと思うわ」
「それは」
「えぇ、彼女は記憶操作の言霊を使おうとしたんでしょうね」