第13章 第十二話 東へ
「マリとユキサちゃんが感じていた、AKUMAとイノセンスの気配。あそこにいたみたいだよ」
戦闘の途中でユキサが一時離脱したのを、不二が思い出す。
神田が隣りにいるユキサに視線を向けた。
疲れからか、神田に寄りかかって眠っている。
「どうしてそんな実験を…」
「…。…実は9年前にも実験があってね」
ここまで見てしまったのなら、もう話してもいいだろうとティエドールが神田をちらりと見たが、神田は特に何も言わない。
「セカンドエクソシスト計画。教団はそんな人体実験を過去にもしていた」
「人体実験…」
ティエドールは大まかに話した。
聖戦で亡くなったエクソシストの脳を別の体へ移植し、再びイノセンスを使えるようになるか、実験をしていた。
神田やマリがそれに関わっていた事は伏せて。
聞いた彩音が何かを堪えるように口を抑える。
「そんな…教団が、そんな事…」
「…。もう今は、していないって事ですか?」
ティエドールの話し方から不二がそう聞くと、頷かれる。
「その計画はちょっと事故があって今はもうやっていない」
「事故…?」
「だが…」
今回のロシア帝国で見たもの。
それを思い出しながらティエドールが口を開いた。
「また教団は…何かやらかしているんだろうねぇ」
「………」
9年前のあの惨劇…。
教団は何を考えているのやら。
神田がギリッと歯を噛みしめる。
―――ユキサの目が開いていた事に、誰も気が付かなかった。
それから数時間後。
長い時間汽車に乗って強張った体を、彩音が伸びをしてほぐす。