第13章 第十二話 東へ
息を整えている彩音に、不二が近づいてくる。
「大丈夫かい、彩音」
「うん…」
最近のAKUMAは力をつけてきている。
そして量も多く、一回一回の戦闘が長引く事が多くなった。
2人がティエドールの所へ戻ろうとした時、辺りに怒鳴り声が響いた。
何事かとそちらを向けば、研究員たちがユキサへ文句を言っている。
「ど、どうしたの!?」
「どうしたもこうしたもない!なんて事をしてくれたんだ…これじゃぁ実験が…」
「実験は失敗していた。あのままだとAKUMAを引き寄せるただの餌」
ユキサの何の感情も映さない瞳、そして冷たい声。
彩音がぞくりと体を震わせる。
「だ、だが我々は…!」
「『うるさい』」
キィンと耳鳴りがなった。
瞬間、騒いでいた研究員たちが静かになる。
ふらりとよろけたユキサの体を神田が支えた。
「元帥。もうここには用はありません」
先を急ぎましょう言ったユキサにティエドールはやれやれとため息をついた。
江戸へ行くために東へ進む。
イノセンスも回収し、襲ってくるAKUMAも少なくなるだろう。
新しいエクソシストもロシア帝国に派遣するように教団へ連絡もした。
「あの、元帥…さっき研究員が言ってた事って…」
「ん?あぁ…」
果たして本当の事を言ってもいいものか。
しかし彩音は、不安が混じっているものの真剣な表情でティエドールを見る。
ふぅ、と一呼吸置いて、ティエドールが口を開いた。
「あの地にいたエクソシストがね、どうやらもう長くなかったようだ。そのためなにかの人体実験に利用しようとしていた所を、ユキサちゃんがイノセンスを奪って実験を阻止した、というところだね」
神田が閉じていた目を開く。
「ユキサはどうしてその事を…」