第12章 第十一話 夢現の大地
不二が彩音の部屋へ向かってからすぐのこと。
部屋に戻ったユキサは、扉の開閉音が聞こえて廊下を覗いた。
神田が階段を降りていく姿が見える。
そのまま窓から外を覗いていると、神田がどこかへ向かうのが見えた。
ユキサは静かに後を追う事にする。
神田が向かった先は鐘が吊るされている塔。
少し崩れている階段を登り、塔の最上階へ着くと、そこからは町が一望できる。
もちろん、荒廃した町だが。
じ、と町を見つめる神田を、ユキサが呼んだ。
特に驚く様子もない神田は、ユキサが着いてきていたことに気づいていた。
「神田、あれは夢だよ」
神田がユキサを見る。
見たまま何も言わない神田に言葉を続けた。
「神田は覚えてるんだね。夢は全て消したはずなのに」
「…呪符のせいだろうな」
「厄介だなぁその呪符」
ストンと神田の傍へ座る。
そのまま神田を引っ張って、彼も座らせた。
少し驚きながらも神田はユキサの隣に座った。
「大丈夫。きっとあの人と会えるよ。ううん、私が絶対会わせてあげるから」
「………。……お前は」
ん?と首を傾げるユキサから、視線を外す。
―――――置いていかないで…神田…。
いつか聞いた、ユキサの言葉。
あの人の夢を見た時、俺は、ユキサの事を忘れていた。
俺は………。
『ラクリモサ ディエス イラ…
クア レスァジェット エクス ファヴィラ…』
隣でララの歌を歌うユキサに、神田は何も言えずにいた。