第10章 第九話 沈黙の棺
「どうにも…弄ばれているようで気分が良くないな」
「イエーガー元帥をあっさり倒した件でも、いつでも僕たちを殺す事が出来ると言われているようだね」
不二が言うとマリが頷いた。
とその時、少し離れた先から大きな爆発音がした。
「戦闘!?」
「元帥!」
しばらく走った後、見えてきた背中に向かって、神田とマリが声をかける。
「…ティエドール元帥」
久しぶりりーんと明るい声で返ってきた言葉に、ユキサたちは面を食らったような表情をした。
「そうか…デイシャが、死んでしまったのか…」
「ティエドール元帥、すみません、私の力不足のせいで」
涙を流すティエドールに、ユキサが謝罪を述べる。
しかしティエドールは小さく首を振った。
「ユキサちゃん、だったかな?ノアと戦ったんだ。キミが生きていただけでも奇跡だよ。キミが生きていてくれてよかった」
デイシャもそれを喜んでいる事だろう。
『生きろ』
最後に見たデイシャの顔を思い出し、ユキサが力強く頷いた。
「デイシャの隣人ノ鐘<チャリティ・ベル>も破壊されたようです。ティエドール元帥、一度我々と本部にご帰還を…」
「デイシャの故郷は、確かボドルムだったかな」
神田の言葉を遮って、ティエドールが白い用紙を広げた。
デイシャの故郷を思い出しながら、スラスラと描いていく。
「デイシャ…絵で申し訳ないがキミの故郷を送ってやろう。…どうか、心安らかに」
そう言ってデイシャの故郷の絵を燃やしていく。
それを見ながら、神田が言葉を続けた。
「元帥。敵はあんたとあんたの所持しているイノセンスを狙ってるんです」
「私は帰らん」
はっきりと言ったティエドールに彩音がでも、と言うと、ティエドールが手で遮る。
「今は戦争中なんだ。元帥の任務を全うする。…それに新しいエクソシストを探さないと」
静かに神田が目を伏せた。
マリもフッと笑った。