第10章 第九話 沈黙の棺
―――――隣人ノ鐘が、ころころと転がる。
「デイ、シャ…」
パリン、とデイシャのイノセンスが破壊された。
途端に体に走る痛み。
「あ、あああああ!!」
「ん?」
まだ意識を保っていたのかと振り返れば、ユキサからはイノセンスの光が溢れていた。
「なんだ、この光…」
タイミング的に、イノセンスを壊したらこうなったのか…?
ニヤリ、と男の顔が歪む。
「キミのイノセンスは、他のイノセンスとはちょっと違うみたいだな」
ス、と手を伸ばそうとした所で、デイシャが叫んだ。
「スノーベル!ユキサを連れて逃げろーー!」
「お?」
デイシャの言葉にユキサの団服から出てきたスノーベルが、ユキサを掴んで空を飛んだ。
その素早いスピードに頭をかく男。
スノーベルの話はバルセロナに着く前にユキサから聞いていた。
人1人くらいなら余裕で運べる力持ちなの、と。
笑ったユキサの顔が、思い浮かんだ。
「生きろ…ユキサ…」
「あらら~…ま、いっか。元々ターゲットじゃないしな…。この事は千年公に伝えておくとして」
男はデイシャの胸へと手を伸ばした。
ぶちっと取ったのはデイシャ・バリーと刻まれている団服のボタン。
「楽しかったよ。…じゃあな」
男は、そう言い残すとその場から立ち去った。
「あっ…!」
「おい!」
ガクン、と彩音がその場に膝をついた。
苦しそうに肩で息をしている。
同時に、何かを失ったような感覚。
「ごめ、ん…すぐ、治まるから」
そう言った彩音に、次いで走る感覚は。
―――――ユキサの強化が…解けた…。
急に体が重くなる感覚に、神田もどうやら同じものを感じていたようだった。
ユキサの身に、何か起こった…?
考える間もなく、頭上にAKUMAが出現する。
すぐに六幻を構えたが、AKUMAは何かを追っているようだった。
「!!…神田!!」
AKUMAの追いかけているそれが分かり、彩音が叫ぶ。
「界蟲一幻!!!」
AKUMAが爆発し、そこへゆっくり降りてきたのは…。
「スノウ!ユキサ!!」
ふらふらとユキサを掴んだスノウの姿だった。