第10章 第九話 沈黙の棺
デイシャの腹へ一発打ち込んだ男の動きが、ぴたりと止まる。
押し倒して殴っていたデイシャの傷が、次々と治癒していく。
ゆらりと、男がユキサに振り返った。
ユキサが腹を抑えながら咳き込んでいる様子を見て、にやりと笑った。
「な~る…」
コツコツと男が歩いてくる。
起き上がる気力は、もうない。
ぐい、と強く顎を持ち上げられ、その痛みに顔が歪んだ。
「まずは…キミからかな?」
「やめろ!!ユキサ!!!」
ダッとデイシャが走ってくる。
駄目、逃げて……!!!
ユキサの願いも虚しく。
男は振り向いてユキサを掴んでいる手とは別の手で、デイシャの体を貫いた。
『ハッ……、楽し…!』
「ん?どうしたデイシャ」
聞こえてきた声にマリが反応する。
『やめ………!!ユキサ……!!!』
「!?」
ハッとしたようにゴーレムへ視線を向けた神田と彩音。
それ以降、デイシャとユキサとの連絡が途絶えた。
「ハァ、ハァ…マリ、デイシャたちと連絡は取れたか…?」
いや、と返ってくる言葉に、彩音がギュッと目を瞑る。
デイシャ、ユキサ…どうか無事でいて…!
先程聞こえてきた断片的な声は、切羽詰まった声だった。
彩音の様子を見ながら、神田が小さく舌打ちをした。
デイシャは元々ゴーレムの調子が悪かった。
一緒にいるユキサのゴーレムのスノーベルは生憎通信機能を持たない。
ゴーレムの調子が悪いだけなら良いのだが…。
「朝にはこちらに来るだろう」
「あぁ。…俺たちもそちらに向かう」
彩音に動けるか?と声をかけ、神田が立ち上がった。
もちろんと頷くと、彩音も立ち上がる。
「(大丈夫、あの2人なら…でもなんなの。この嫌な予感は)」
どうやっても拭いきれない不安に彩音がもう一度2人の無事を祈った。