第10章 第九話 沈黙の棺
この男は只者ではない。
見逃してもらえるならば、何が何でもデイシャを止めるべきだった。
スイ、とベルを避けて男が振り返る。
「お前、ただの人間じゃねぇな。ちょっと話、聞かせろよ」
「…せっかく…我慢してたのに…」
もう、我慢の限界だ…!!!!
そう言って振り返った男の顔は褐色の肌、そして額には痣が出現していた。
「ノア…!!!デイシャ!!!」
ユキサがデイシャへ駆け寄り、大鎌を構えた。
「隣人ノ鐘<チャリティ・ベル>!!!」
ゴオォ!とベルが男へ向かう。
ひょいと避けた男が、ひゅぅ~と楽しそうに笑った。
「恐ろしい」
「当たればもっと楽しめるジャン!」
もう一発打ち込んだベルは、辺りの建物の中へ。
衝撃と共に響いてきたのは鐘の音。
パリィン!と窓ガラスが割れた。
「音波か」
呟いた男の横の壁を破壊して、ベルが飛び出してくる。
だがそのベルを男が軽々と受け止めた。
「何!?」
「フッ…この程度か…ッ!?」
バッと男がその場から避ける。
大鎌を構えたユキサの額を、冷や汗が流れる。
デイシャのベルの攻撃は止められるだろう。
そう読んでの攻撃だったが、それさえも避けられた。
「(どうする…私たちじゃ、コイツには敵わない…!)」
「ふーん…」
呆然と立つデイシャと自分を睨みつけてくるユキサ。
2人を交互に見ながら、男がティーズ、と言った。
瞬間、ザアアアアと無数の蝶が男の手から溢れ出る。
「さて…どこまで楽しませてくれるかな?」