第9章 第八話 魔女の棲む村
「なら、お前は残るか?」
「はぁ…。ほんと神田はユキサ以外には態度が冷たいね」
フンと鼻で笑った神田に、不二は床に敷かれている布団へ横になり、やれやれとため息をついた。
「ユキサ!ベッド使っていいよ」
日本に住んでいた身としては、布団で眠ることも慣れている。
そう思って譲った彩音にユキサはありがとうとお言葉に甘えて寝転んだ。
ユキサのびしょぬれだった服はソフィアが乾かしてくれており、ユキサは今ソフィアから借りた服を着ている。
「そうだ、首の傷、大丈夫?」
「もう痛みもないし大丈夫だよ」
気になった彩音がユキサの首を見るが、そこには傷一つ残っていなかった。
よかった、と安心する一方、その不思議な体質に彩音は顔を曇らせる。
ユキサが手を伸ばして彩音の頭をよしよしと撫でた。
「え、何…」
「なんとなく」
自分の方が年上だというのに、時々ユキサはお姉さんのような空気を醸し出す。
ほっと息をついて、彩音は布団に座った。
「そういえば、さ…神田が花の事…詳しいの、珍しいよね」
「あぁ…。…神田にとって、蓮の花は特別みたいだから」
池で見たユキサの表情が気になっていた彩音が言うと、ユキサが言いながら小さく微笑んだ。
特別?と疑問を口にするが、ユキサは頷くだけでそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
踏み込んではならない事なのかもしれない。
そう思って、彩音は話を打ち切ることにした。
「あの神田が花の事知ってるなんて想像もできなかったから、ちょっと気になっただけなんだけどね!…そろそろ寝よっか」
「…そうだね。おやすみ彩音」
布団に潜り込んだ彩音は、しばらく眠れなかった。