第9章 第八話 魔女の棲む村
「おい!」
「ん?」
自らの団服をかけてくる神田は、若干頬を赤らめていた。
珍しいなと思っていたユキサだったが、ふと自分の格好を思い出した。
「あ、そっか。ごめん、ありがとう」
「………」
服を着たまま川に飛び込んだのだ。
団服は元々厚い生地で出来てはいるが、肌にぴったり張り付いている状態もあり、色々目に悪いのだ。
いつもは左の高い位置で結っている髪も今はおろしており、長い髪が艷やかに光る。
自分の他に男が不二だけだったのが不幸中の幸いだと神田は思った。
「それで、その子は…。…この小屋に住んでるんですか?」
ユキサが聞くと、少女がふるふると首を振った。
「いいえ。この小屋は今は誰も…」
「そうですか…ダンケルンの村の人ですよね?」
はい、と答えた少女に、不二が続けた。
「僕たちは旅の者で、今夜は村に泊まろうと思ってまして」
「そうだったんですね。宿ではありませんが、よかったらうちに泊まって下さい」
部屋は余ってますのでと言う少女に、彩音がありがとうと嬉しそうにお礼を言った。
そんな会話を聞きながら、ユキサが近くの池に目を向ける。
神田もその池を見つめており、ぽつりと呟いた。
「…蓮の花、か…」
「この池に、こんな花が咲いているなんて今まで知りませんでした」
もうずっとここに住んでいたのに…と少女が言う。
「…。…もしかしたら今日初めて咲いたのかもしれん。蓮の種は1000年土に眠っていても、再び芽を出す事がある」
「でも可哀想…もうすぐ枯れてしまうなんて」
枯れるのではない、と神田が首を振る。
「明日の朝になれば、また咲くさ」
「神田…花に詳しいんだね」
珍しく雑学を話し出す神田に不二が言うと、蓮の花だけだと神田が呟いた。
その様子をユキサが少しだけ寂しそうに見つめているのを、彩音が気づいた。