第8章 第七話 終末への幕明け
異変に気づいた宿の店主がやってきたが、瞬時にユキサを着ていたマントで包み込む。
なんでもねぇと返して、神田はユキサを抱き上げ、宿泊している部屋へと足早に向かった。
「イエーガー元帥…!」
自分たちがいる場所が一番近い。
間に合え、間に合え…!
降り付ける豪雨のなか、アレンたちはひたすら走った。
しかしその時、彩音がぐらりと体勢を崩した。
「彩音!?」
「ハッ…ハッ…くる、しい…」
地面へと倒れ込んだ彩音に、不二が駆け寄る。
大丈夫ですか!?というアレンの声。
息も絶え絶えになりながらも、彩音は不二の手を借りて立ち上がった。
「だ、大丈、夫…早く、早くイエーガー元帥の元に…!」
「彩音!」
酷い顔色に不二が止めようとするが、彩音はぶんぶんと首を振った。
―――――嫌な予感がする。
この胸の苦しみ、そしてイエーガー元帥の顔が浮かぶ。
「分かった、そこまで言うなら止めないよ」
「彩音、無理はしないで下さいね。…行きましょう!」
引く気がない彩音に小さくため息をついて、不二は彩音を背負った。
アレンも彩音を心配しながらも、再び走り出したのだった。
しばらく走ると、AKUMAの残骸が見えてきた。
辺りを見回して、イエーガーがいない事にアレンが唇を噛む。
少し落ち着いたらしい彩音が不二から降りて、呆然と立ち尽くした。
少し離れた所に立つ、ティエリーの姿を不二が見つける。
「ティエリーさん!元帥は…」
アレンの言葉に、ティエリーがゆっくりと大きな木へ目を向けた。
ドクン、と心臓が波打つ。
「あ…あ……っ!」
どさりと彩音が膝をついた。
その大きな木に括り付けられたイエーガーの姿が、そこにあった。