第8章 第七話 終末への幕明け
ガバッと起き上がって一気に酔いが覚めたユキサが神田を睨んだ。
「い、いままで無視してたくせに、なんで…」
「無視してたのはお互い様だろ」
ユキサが言葉を詰まらせる。
神田が椅子へ腰を下ろす。
「だって!かんだが…かん、だが…」
―――――別の人を想っているから…。
部屋の奥に置いてある花をチラリと見る。
私は何を言おうとしてるのだろうか。
自分と神田はそんな関係ではない。
ブンブンと首を振ったユキサを見ながら、神田が言いにくそうに口を開いた。
「悪かったな」
「…。…え!?」
小さく聞こえた台詞に、ユキサは驚いて目を見開く。
まさかあの神田が謝るなんて…。
「お前を勝手に『あの人』だと決めつけて混乱させた」
よくよく考えれば分かることだ。
記憶もなかった、時系列も合わない。
元々ユキサには不思議な力があるのだ、花が見えるのも治癒能力が高いのもその理由だって考えられる。
未だにぽかんとしながら神田の言葉を聞いていたユキサが、小さく俯いた。
「ううん、わたしもごめん…その、八つ当たりしちゃって…」
「?」
「…なんでもない。神田、わたしもこうしてお花が見えるんだし、『あの人』をさがすのてつだうよ」
おい、と声をかけてくる神田にユキサはニッコリと笑った。
とりあえず仲直りだねと言うユキサに、喧嘩をした覚えはないと言う神田。
―――――いいんだ、私たちはこういう関係で。
自分の心に、静かに蓋をする。
「そういえばお前…」
「ん?」
「酒は禁止だ」
「嫌」
眉間に皺を寄せた神田に、ユキサは小さく笑った。