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【Dグレ夢】TRICOLORE【長編】

第7章 第六話 千年の剣士


「ちょっ…神田、痛い」

ハッと神田が慌てて肩を離した。
いつもと様子が違う神田に、ユキサは戸惑う。
ぽつりと、神田が呟いた。

「…俺はずっと、ある人を探している」
「ある人って…。もしかしてそのお花に関係あるの?」

静かに頷く。
この花は、他人には見えない、神田にしか。

それなのにそれが見えるということは―――。

ゆっくりと伸ばしてきた神田の震える手を…。

ユキサは、払い除けた。
呆然とする神田に、ハッと我に返ってユキサが小さくごめんと呟く。

「その、上手く言えないんだけど。…多分それ、私じゃないと思う」
「っ…じゃぁ何故お前には見えるんだ!?」

払われた手で、ユキサの手首を掴んだ。
分からない、とただ首を振るユキサに、神田がぎり、と唇を噛んだ。

しばらくの沈黙の後、神田が手首を離し、背を向ける。
何か言いたそうに一度ユキサを見てから、何も言わずに部屋を出ていった。

掴まれた手首に視線を落として、ユキサはため息をつく。

私は神田の探している人じゃない。
確信があった、何故だか分からないけれど。
私が土足で踏み込んではならない大切な思い出が、神田にはあるのだと。

「それに…」

神田が伸ばしてきた手に、ズキリと胸が痛んだ。
気づいた時には払い除けていた。

―――――神田の瞳は、私ではない誰かを見ている。

それがどうしようもなく嫌で、私の心を蝕んだ。

「あーあ…失恋して気づくなんてなぁ…」

乾いた笑いを浮かべ、ユキサはベッドへ沈み込んだ。
涙は出なかった。

だって私の恋は、始まる前から終わっていたのだから。
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